いま、あなたが着ている服は、だれが作ってくれたのでしょうか?
いま、あなたが見ている端末は、なにからできていますか?
それをつくる過程で、なにかが苦しめられていないでしょうか。
大量生産、大量消費の時代を生きているわたしたちにとって、もはやパソコンも消耗品と化しつつあります。
パソコンもスマホも数年で買い替えるのが当たり前。
めまぐるしく新たな性能やオペレーティングシステム、使い心地の良いデザインが開発され、たちまちそれを手にしなければ「時代遅れ」になってしまう。
それにはもちろん、企業の意図も無関係ではないでしょう。
しかしそうでなくても、一生ものの服を持つように、一生もののパソコンを持つことはできません。
例えば「もう着ない服」を処分するとき、あなたならどうしますか?
まだ着られるのに捨てるのはもったいないから、高かったから、レアだから──
いろいろな理由で、すぐさま捨てることを避けるのは、自然な発想です。
ではパソコンはどうでしょうか。
コンピュータ機器はその精密さゆえに、製造の過程に加え、処分方法も服と比べれば複雑です。
いまの状態でどの程度の価値があるのか、どこを交換すればまだ使えるのか、部品ごとにリサイクルする場合の手続きなどの判断はなかなか難しい。
したがってコンピュータ機器は、環境、社会への影響も複雑になっています。
パソコンを製造、使用、廃棄するにあたって引き起こされる影響をかえりみると、それが決して小さくないことは、あまり知られていないのではないでしょうか。
じつは現代のわたしたちにとって、「リユース」という選択肢に目を向けてみることは、倫理的にも経済的にも、とても理にかなっているのです。
そしてそれはサステイナビリティ、ひいてはSDGs(持続可能な開発目標)にも直結する選択になります。
サステイナブルな生産と消費をおこなうことで、救われる「ひずみ」が数多くあるのです。
では、TCEのリユースパソコンを使ったり、使用済みのパソコンをTCEに預けたりすることにはどのような意義があるのでしょうか。
環境、人道、そしてパソコンのライフサイクルという観点から探ってみます。
環境負荷へのアプローチ
パソコンが製造される際には多くの資源が必要になるだけでなく、使用済みのパソコンからは「電子廃棄物」が発生します。
製造・廃棄どちらについても、それらによる環境への負荷には、看過できないものがあります。
一台の機械を動かすためには、多くの場合、金属が非常に重要な存在です。
特に、パソコンやスマホなどには貴金属(レアメタル)が使われており、それらの採掘や精錬には、水や空気、土壌などの汚染という環境破壊がともないます。
そのため、新しくパソコンを購入することは、さらなる環境負荷に加担することにつながるのです。
このような電子機器への需要は年々高まっており、特にコロナ禍以降のパソコン出荷台数は顕著に伸びました。
電子廃棄物の量にくわえ、それらのゆくえも、近年において問題性が高まってきています。
電子廃棄物はさまざまな要因で増加しているだけでなく、適切に処理されているケースが少ないのです。
そのような電子廃棄物はまた環境汚染に拍車をかけ、最終的にはわたしたち人間と生態系に悪影響を及ぼします。
しかし、電子廃棄物に含まれるレアメタルをはじめとした金属は、リサイクルが可能です。
レアメタルの供給不足が懸念される現在では、その必要性が高いにもかかわらず、この問題は電子廃棄物とともに山積しています。
この現状はサステイナブルとは言えません。
(ちなみにTCEでは、リユースが不可能なコンピュータ機器は部品ごとにリサイクルしています。)
新品のパソコンを手に入れ、環境問題のひずみを大きくするのか、それともまだじゅうぶんに使えるリユースパソコンを選ぶのか。
もしくは、パソコンを単なるゴミとして排出するのか、あるいはリユースやリサイクルを可能にするのか。
環境を想うのであれば、取るべき選択肢は瞭然かもしれません。
人道的問題へのアプローチ
パソコンの製造、廃棄にあたって苦しんでいるのは環境だけではありません。
パソコンを含めたあらゆる電子機器に必要な資源をこしらえたり、電子廃棄物の処理をおこなったりするために、深刻な社会問題が引き起こされていることも事実です。
すなわち、危険な労働環境、環境汚染による健康被害、法制度の欠陥などによって、人権が脅かされているのです。
鉱物資源の採掘や、電子廃棄物の処理の現場はおもに発展途上国にあります。
そこでは安全といえるような労働環境は整っておらず、危険な作業がともなう場合がほとんどです。
また、労働者にとっての危険にとどまらず、周辺に住む人々には、環境汚染に起因する疾患が発生しています。
このような国は鉱物資源が豊かであるにもかかわらず、外資系の企業や政府によって利益が牛耳られているという問題も隠されています。
それだけでなく、鉱物資源から得られる利益が、武装組織の資金源となる「紛争鉱物」の問題も見逃してはなりません。
ここでも、サステイナビリティとは程遠いビジネスが横行していることが見えてきます。
パソコンやスマートフォンを製造するのに必要な資源の多くは国外で採掘されており、また、それらから出される電子廃棄物も、多くが国外に運び出されています。
そのため、それらの現状はわたしたちにとって身近には感じられないかもしれません。
しかしパソコンやスマホは、わたしたちが毎日触れている生活必需品そのもの。
このような現実を認識し、思いを馳せてみるのも、責任ある消費の手立てになります。
パソコン一台をとっても、わたしたち次第で少しでも「善い」選択をするのが可能だということが見えてくるのではないでしょうか。
参考文献
蟹江憲史、『SDGs(持続可能な開発目標)』、2020年、中公新書
ピーター・レイシーほか、『サーキュラー・エコノミー・ハンドブック:競争優位を実現する』、2020年、日本経済新聞出版
Virgil Hawkins、『電子廃棄物の問題』、Global News View、2021年5月13日、 https://globalnewsview.org/archives/14743
Virgil Hawkins、『電気自動車環境に優しいのか』、Global News View、2018年4月19日、 https://globalnewsview.org/archives/6702
Hampus Andréほか、『Resource and environmental impacts of using second-hand laptop computers: A case study of commercial reuse』、ScienceDirect、2018年
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0956053X19301825
渋谷昭寛、『パソコンのリユース・アップグレードに関する LCA 研究 ―2R型買い替え行動に着目して―』、発行年不明
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